野山です。
今回は、a-worksで昔から言い続けている「最悪民事」という考え方と、それとセットで実践してほしい「エフェクチュエーション」という考え方についてお話ししたいと思います。
「最悪民事」とはどういう意味か
a-worksは、誠実に、倫理に沿ってやっているし、ややこしいことはしないようにしています。だから、刑事事件にはなりません。警察には捕まりません。
でも、民事事件というものは、世の中いたるところで起きています。名誉毀損、離婚、業務上のトラブル。だから世の中にはこんなに弁護士が多い。
パナソニックやソニーといった誰でも知ってる大企業でも特許侵害の訴訟は常に抱えていますし、世界に目を向けてみてもAppleとSamsungが争っていたり、大手企業同士が業務提携の解約金で揉めて民事裁判に委ねていたりとか、実はいっぱいあるんです。
でも、それって何もおかしいことではないんですよ。トラブルが起きたから、互いに代理人を立てて解決しましょうっていう話でしかない。裁判とか訴訟という言葉を聞くと怖いかもしれませんけど、それだけの話。日本人はあんまり慣れてないからか、過剰に恐れすぎだなと思っています。
つまり、みんなビビりすぎなんです。
最悪民事になったとしても、別に何も起きません。刑事事件と違って懲役になることもないし、容疑者として新聞に載ることもない。もしかしたら、第三者が入って裁判官が話を聞いて交渉するっていう大がかりなものになることはあるかもしれないけど、大体そこまでいかない。
だから、すべての物事を思い切ってやってほしいということです。
エフェクチュエーションという考え方
「思い切ってやる」の前に知っておいてほしいのが、エフェクチュエーションという考え方です。
エフェクチュエーションには5つの原則があります。
1. 手中の鳥の原則
今ある資源の中で組み合わせてできることをやりましょうという考え方です。
無茶なことはしない。例えば、実績もなにもないスタートアップがいきなり大金をかけてブランドロゴをつくったり、きれいなオフィスを開設したり…は、やらない、ということ。
まずは今できることで小さなプロトタイプを作ってみる。プロトタイプが作れないなら、まずどういうプロダクトを作りたいかを決めて、「こういうものを何ヶ月後に作れるんですけど、仮発注しませんか」ってセールスをしながら、顧客群を作っていったり、ニーズを明確にしていく。
今ある資源の中で、しっかり考えてチャレンジする。それが、手中の鳥の原則です。
2. 許容可能な損失
これは、失敗したときにどこまでなら耐えられるかを先に決めておくという考え方です。
従来のコーゼーション(計画型)では、「うまくいったらどれだけリターンが得られるか」を計算して投資を決めます。期待リターンで判断する。
でもエフェクチュエーションでは逆。「うまくいかなかったときに、どこまでなら損失を許容できるか」を先に決めます。例えば
- 「この新規事業に500万円までなら使える。失敗しても会社は潰れない」
- 「3ヶ月なら赤字でも大丈夫。それ以上続くなら撤退」
- 「自己資金100万円の範囲でやる。なくなっても生活には困らない」
など。こうしたラインを決めておくと、その範囲内では思い切ってチャレンジができる。これによって、大きく失敗するリスクを避けながら、小さく何度もチャレンジできるようになります。
3. クレイジーキルト
「クレイジーキルト」とは、色も形も大きさも異なる布を縫い合わせて作る1枚のキルトのことです。バラバラのピースが集まって、一つの作品になる。
この原則の本質は、あらゆるステークホルダーとパートナーシップを構築していくということです。
従来のコーゼーション(計画型)では、市場分析をして「誰が顧客で誰が競合か」を明確に識別します。競合は倒すべき相手。
でもエフェクチュエーションでは、競合さえもパートナーになり得ると考えます。コミットメントを提供してくれる可能性のあるすべての人と、良好な関係性を築こうとする。
パートナーが増えると何が起きるか。彼らが持っている資源(知識、人脈、技術)も「手中の鳥」に加わるんです。自分一人では10しかできなかったことが、パートナーと組むことで100できるようになる。
さらに、パートナーは新しい「手段」だけでなく、新しい「目的」も持ち込んでくれます。「それ面白いけど、こういう使い方もあるんじゃない?」みたいな。
だから資源を組み替えていく、パートナーを入れ替える、配置を変更する。そういう柔軟な動きで、できることをどんどん増やしていくというのがクレイジーキルトの原則です。
4. レモネードの法則
アメリカには「When life gives you lemons, make lemonade(人生がレモンをくれたら、レモネードを作ればいい)」ということわざがあります。レモンには「よくないもの、うまくいかないこと」というニュアンスがあって、そのまま食べると酸っぱくて美味しくない。でも、一手間かけてレモネードを作れば美味しく飲める。
つまり、失敗や予期せぬ事態を避けるのではなく、むしろそれをテコとして活用するという考え方です。
従来のコーゼーション(計画型)の発想では、不確実性を削減するために追加の情報を収集・分析して、できるだけ失敗を避けようとします。
でもエフェクチュエーションでは、予期せぬ事態は不可避的に起こると考えて、起こってしまったその事態を前向きに、チャンスとして活用しようとするんです。
失敗から学んですぐにアクションを変える。そして、その失敗自体を新しい「手中の鳥(資源)」として活用していく。これがレモネードの原則です。
5. 飛行機の中のパイロット
未来を予測しようとするのではなく、状況をコントロールすることで成果を出すという考え方です。
飛行機のパイロットは天候を変えることはできません。でも、状況を見ながら高度を変えたり、ルートを調整したり、自分がコントロールできることに集中して目的地に到達します。
経営も同じです。「将来こうなるよね」みたいな中期経営計画を何年も先まで細かく立てるんじゃなくて、今自分たちができることをしっかりやって、変化に対応していく。これがエフェクチュエーションの本質です。
この考え方は、企業やベンチャーのスケールアップ、特に変化の激しい業界では非常に有効だと考えられています。なぜなら、予測困難な環境でも前に進めるからです。
そして重要なのは、この考え方はアクションが前提だということです。
どんどん行動していくことが前提になっているので、「何か起きたらどうしよう」「失敗したらどうしよう」っていう思考だと、もうチャレンジできないんですよね。
再度、みんなビビりすぎ問題
動けない人やアクションまでに時間がかかる人を見ていると、ビビりすぎて自信がない、「失敗したらどうしよう」が先行しちゃってるケースが多いように思います。
「揉めたらどうしよう」「怒られたらどうしよう」と思っていたとしても、多くの場合、実際には何も起きないんですよ。
お互いビジネスでやってるんだから、一言二言でむかついて「もうあなたと喋りません」なんてことにはならない。小学生じゃないんだから。
そもそも、やってみないとわからないことっていっぱいあるんです。
もちろん、何も考えないでやれっていう話じゃないです。解像度高くちゃんと考えた上で、それでもやってみないとわからないことはあるから、やれよという話。
ここで誤解してほしくないのは、思い切りがいい人と心配性な人は両立するということです。
思い切りがいい人は、最悪を想像できてるからアクセルを踏める。「これをやって失敗したら、最悪こうなる。でもそれくらいなら大丈夫」と分かってるから動けるわけです。
逆に、挑戦しづらい人、挑戦しない人は、最悪が想像できないからもっと怖いことが起きると勝手に思ってる。妄想が変な方向に向いてます。
これって結局、解像度が高くないから、構造が見えてないからなんですよね。
だからこそ、許容可能な損失をちゃんと見積もって、「ここまでなら失敗しても大丈夫」を明確にする。そうすれば、思い切ってアクションできるようになるはずです。
アクションがすべて
みんな失敗したくないから、いっぱい考えるんです。事例を探したり、みんなに相談したり。
でも、それはただ「やり方」を考えてるだけなんですよ。
その時間も意味がないとは言いません。ちゃんと考えることは大事です。
でも、早く考え抜いて、早くやれなんです。
何と言ってもアクション。どんだけ考えてもアクションがなかったら、アウトプットはゼロなんです。
アウトプットがあるから何かが動いたり評価されたりするわけで、アウトプットがない限り。あなたの中にあるものがどれだけすごいかなんてわからない、という話です。
「すごい頑張ってる」って言う人ほど、「ちゃんと考えてます」と言い訳をします。
頑張ってるのは当たり前なんです。でも、結果が出てないなら、やってることが悪い。考えることと行動することは、セットです。
考え抜いた上で、許容できる損失の範囲を決めて、アクションする。そのサイクルを高速で回す。これがエフェクチュエーション的な動き方であり、a-worksが求める姿勢です。
